いさ走る(主張・メディア掲載)

2018.06.13

今国会は、「働き方改革」国会と呼ばれています。戦後、「労働基準法」ができてから70年来の、大改革となりますが、そのための法案は現在、参議院で審議をされています。

はたして今回の改革で、私たちの働き方がどう変わるのか、私たちの生活がどう変わるのかについて、衆議院厚生労働委員会で議論した立場から、ご紹介をさせていただきます。

 

残業の規制

これまで、残業時間や給料をはじめ、働く人の環境、制度については、経営者と労働者との協議によって決められてきました。さまざまな労働関係の法律についても、経営者側の団体と、労働者側の団体が参加する「労政審」で、その原案がつくられてきました。

しかし、こうした労使の枠組みでは結論が得られず、決められない事項、進まない事項もあり、これらが課題として積み残されてきました。

そこで自公政権においては、「政治」が一歩前に出て話し合う場所をつくり、労使の調整を促す「政労使」の枠組みを初めて作りました。これまで長らく決められなかった点について議論をはじめ、「政治」が触媒の役割を果たし、そこで結論が得られるようになりました。その最も大きな一つが、日本で初めての「残業の上限規制」です。

今回の法案では、日本で初めて、罰則付きで残業の上限を設けました。年間720時間という上限を超えて、残業をさせることはできません。それでも、仕事がどうしても忙しいときがあります。そんな時であったとしても、一か月の残業は100時間未満としなければいけません。また、2か月(~6か月の)平均では、残業は80時間未満としなければいけません。

つまり、仕事がたてこんで、ある月に95時間残業をすれば、その次の月は65時間までしか残業できません。そうでないと、平均80時間未満にならないからです。

この「上限」は、労使が交渉し、議論の末にギリギリで合意したものです。他党は対案として、もっと短い残業時間規制を提案しているところもあります。もちろん、働く人にとって、「短ければ短いほど良い」という方もいらっしゃるでしょう。でも、それは労使で合意されたものではありません。合意のできない、実現可能性のない理想の数字を打ち出すのではなく、責任をもって労使に合意してもらい、実行可能なスタートラインを作るのが、政治の役割だと思います。

しかも重要なことは、これはあくまで「上限」であって、100時間、80時間ぎりぎりの時間外労働を「良し」とするものではありません。ここから「さらなる努力で長時間労働を減らしていく」、政府もこう明確に答弁を重ねてきました。この点が、非常に重要なんです。

 

休み方改革

また、残業代も変わります。月60時間を超えて残業される場合、時給が5割増しになるルールがあります。しかしこれは、中小企業の皆さんには適用されていません。日本の働く人の7割が中小企業で働いていますが、それら方々の残業代は、60時間を超えても5割増しにならなかったんです。これを今回の法律によって、中小企業でも同じように割増賃金が適用されるよう、変更します。

また、「勤務間インターバル制度」も、法律で書き込まれました。

これは、仕事が終わってから次の日に出勤するまでの時間は、一定の時間はあけましょう、というものです。たとえば欧州では、「インターバル」は11時間です。つまり、仕事が遅くなって23時まで仕事をすれば、次の日の出勤は10時以降でよいという仕組みです。これは、働く人の健康管理という点では、非常に有効な取組みです。

この「勤務間インターバル制度」を日本で導入している企業は、現在のところたった1.4%です。いきなり「インターバル制度」を企業の義務としてしまうのは、現場に相当の混乱があるでしょう。こういう状況にも配慮しつつ、努力義務として初めて法文化したことは、最初の大きな一歩だと思います。今後、この「インターバル制度」が広まるように、後押しをしていきたいと思います。

 

休み方改革も重要です。「有給休暇をできるだけとれるようにしよう」という改革も、盛り込まれています。

有給休暇があっても、忙しくてなかなか取れない。あるいは、上司からのプレッシャーがあって、取りづらい。こういう方々もたくさんいらっしゃるでしょう。日本の有給消化率は49.4%、つまり半分以上の有給休暇が消化されていません。中には、一年1日も有給休暇を取れなかったという方もおられます。

今回の法律では、ここにメスをいれます。10日以上有給がある方(6か月以上働いている方は、10日以上有給がもらえます)は、そのうち5日間は、会社が必ずとれるように指定されます。どの5日間で有給休暇をとるかについては、働く人の希望を聞いてから時季を決めることとなりますが、こうして5日間は会社が指定して有給を取らせることを、会社の義務にします。こうした取り組みで、休み方改革も前進させていきたいと思います。

 

パートの処遇改善

法案の大きなテーマの一つが、「同一労働同一賃金」、つまりパートや有期雇用、または派遣社員といった、「非正規」と呼ばれる皆さんの処遇改善です。正社員と同じような仕事をしているのに、給料が違う、休みが違う、手当てが違う。ここを、改善していこうというものです。

もちろん、たとえば正社員の皆さんとパートのみなさんの処遇に差があるのは、理由があります。責任の重さの違いもあるでしょう。あるいは、転勤が正社員にはあるけど、パートには無いなどもあるでしょう。でもそれでも、正社員とパートの皆さんの処遇には、差がありすぎます。

海外と比較すると、たとえば欧米では正社員の賃金100だったら、パートの皆さんは80くらいです。ところが日本は、正社員が100だったら、パートの皆さんは60。これは、いくら理由があるといっても、これだけの差は、合理的に説明できないのではないか。それなら、せめて日本の60を、欧州並みの80くらいまで持っていこう。これが、今回の「同一労働同一賃金」のコンセプトです。この考えに沿って、これから様々な取り組みがなされることになります。

 

中小企業への配慮

今回の「働き方改革」について、中小企業の皆さんから心配の声も寄せられています。たとえば、空前の「人手不足」の中、働ける時間が減ったからといって、その分、新たに雇う人もいない。また、仕事のペースは得てして取引企業に決められてしまう。急な発注、超短期発注などが日常的で、長時間残業は避けられない。こういった心配の声があります。

今回の改革によって、こうした中小企業の経営が立ち行かなくなって、倒産して働く場所自体が失われるようなこととなれば、それこそ本末転倒です。しかしそうはいっても、日本の雇用の7割を担う中小企業で実現できなければ、「働き方改革」になりません。この点は、与党内でも相当に議論がなされました。

 

「働き方改革」のしわ寄せが中小企業に来るようなことは、あってはなりません。この観点から、「働き方改革」にあわせて、様々な中小企業への支援策も、しっかりと用意することといたしました。たとえば、一人当たりの生産性をあげるために、ICT導入の政府の補助を充実させる。取引条件の改善に向け、業界に働きかけて、様々な政策を充実させる。また、中小企業への「働き方改革」の法律の適用を1年遅らせて、準備期間を設ける。行政は、中小企業の置かれた状況に「配慮」して、指導助言を行う。

こうした中小企業への支援をしっかりと行いながら、「働き方改革」を進めてまいります。

 

高度プロフェッショナル制度

今回の法律は、いま日本が直面している課題に対応する、新しい制度も盛り込まれました。

これまで、日本の労働力の中心といえば、「男性の現役世代」でした。しかし、人口減少が進む中で、働く「現役世代」が少なくなってきました。今後も、社会や経済を維持するためには、女性や高齢者をはじめ、多様な人材が多様な形で活躍できることが求められています。そして、それを可能とするためには、これまでと同じような働き方を押し付けることはできません。「残業削減」は必要でしょうし、あわせて、「柔軟な働き方」を可能とする必要があります。この「柔軟な働き方」を後押しするものが、「同一労働同一賃金」であり、そして「高度プロフェッショナル制度」です。

「高度プロフェッショナル制度」とはどういうものか。それは、たとえば仕事の成果はしっかりと出すので、出勤時間や労働時間には縛られたくない。夜型なので、あるいは海外との取引なので、夜に働きたい。こういうニーズに応えて、「働く時間」と「賃金」が直接リンクしていない新しい働き方。これが、「高度プロフェッショナル制度」です。

ところが、この「高度プロフェッショナル制度」を理由に、「残業代ゼロ法案だ!」、あるいは「この制度を使えば、労働者は残業代なく、際限なく働かされる!」といった指摘がなされています。これは、間違いです。

まず、この「高プロ」の対象になるのは、たとえばコンサルタントだったり、金融アナリストだったり、証券会社のディーラーだったり、高度な専門性のある職業に限られます。

さらには、平均年収の3倍(年収1,075万円)を超える人が対象で、労働者の2.9%だけです。一般の人は対象外なんです。加えて、会社と労働者側が了解しないとできないし、何よりも本人が同意が必要です。本人が「高プロ」ではなく、普通の働き方がいいとなれば、決して「高プロ」は適用されません。こうした様々な条件によって、「高プロ」の適用は限定されているので、「残業代ゼロが広がっていく」というのはまったくの誤解です。

こう言うと一部野党の方々からは、「いやいや、今はそう言っているけど、法律が通れば今後、どんどん対象を拡大していくのではないか。一般の人も高プロの対象とするのではないか」と、さらに指摘がなされました。

しかし、これも間違いです。たとえば、先ほど申し上げた条件のうち、一般平均年収の「3倍」といった年収要件は、法律に書かれている事項です。これを変えるためには、再度、国会で審議して可決しなければいけません。つまり、政府は勝手に変えられないんです。

また業種についても、「労政審」の審議が必要です。経営者と労働者が調整して合意が得られないと、成立しません。さらには、「自分は高プロで頑張ったけど、成果主義はやっぱりいやだ。一般労働者に戻りたい。」という方もいらっしゃるでしょう。こうして、「高プロ」をやめる手続きについても、法律にしっかりと盛り込みました。こうして、「高プロ」は幾重にも慎重な運用がなされることになっています。

国会では、「高プロは労働時間が把握されないので、過労死しても労災認定されないのでは」との声もありました。ここも、審議の中で明らかにされました。

「高プロ」は労働時間と賃金が関係ないといっても、会社側は労働者が何時間働いているかについては、「健康管理時間」という形で把握する必要があります。この「健康管理時間」は、一般労働者の「実労働時間」とほぼ同じ意味があることは、国会の議論で明らかになっています。また、労災認定手続きも、一般労働者とくらべて変わらないと、確認がされました。

 

データ問題

「働き方改革」の国会での議論の中で、厚労省が提出した労働時間のデータに、問題があることが発覚いたしました。これは、「監督的調査」とって、労基署が企業に「監督」のために入った際に、あわせて聞き取った「労働時間」を集計したデータでした。ある意味、「監督」のついでに聞いたものだったので、「労働時間」のデータのうち、2割もが間違いとなりました。

結果、国会の審議は大いに混乱をしました。これは非常に残念なことで、政府には猛省を求めました。

そのうえで、このデータ問題があったとしても、法案の中身が変わるものではありません。野党には、「根拠となるデータがおかしかったので、法案もやり直し!」と言う方々もおられますが、それは以下の理由で間違いです。

間違ったデータが使われたのは、「長時間労働の是正」と、「中小企業における時間外労働割増賃金の適用」について、労政審で議論したときです。その議論の結論が何だったかというと、「長時間労働は減らすべきだ」、また「中小企業の残業代もきちんと割増しよう」でした。

厚労省がデータの誤りをなおして国会に再提出した結果をみると、例えば一月の残業時間が45時間を超える企業は1割程度で、誤りを直す前も後もかわりませんでした。つまり、議論の結論は、結局は「残業を減らすべき」、あるいは「中小企業の残業代も割増しよう」であって、その必要性が変わるものではないんです。

もし、「データに間違いがあるので、労政審に差し戻して議論しなおすべきだ」と主張を続けるとすれば、それは単に長時間労働是正の取り組みを遅らせるもので、まったくの的外れだとはっきりと申し上げたいと思います。

 

最後に

「働き方改革」の法案に盛り込まれた内容の多くは、たとえ野党の皆さんであっても広く賛同されるものです。たとえば時間外労働の上限規制については、野党の支援団体の連合の神津会長からも、「一刻も早くスタートさせていただきたい」と、参考人質疑において強く発言されていました。

ほぼ毎日、ご家族にとって大切な命が、過労死によって日本のどこかで奪われているという現状において、「働き方改革」は待ったなしです。「残業を減らしていこう」「過労死を無くそう」という思いは、だれもが共有しているはずです。今回の法律をひとつのステップとして、関係者の皆さんとさらに努力を重ねていきたいと思っています。