IR法案について、私は賛成をいたしました。その理由について以下、申し上げたいと思います。
まず、公明党が「自主投票」になりました。「党議拘束」をかけず、各議員が判断せよ、となりました。
これまで、党内でいろんな議論があっても、組織として決めたら、全員その方針に従う。このガバナンスが公明党の強みでした。そういう意味では、今回の対応は極めて例外で、過去に「自主投票」になったのは、私の知る限りでは、いわゆるサッカーくじの「TOTO法案」と、「臓器移植法案」くらいです。
「自主投票」となった理由としては、各議員の地元の地域性が大きく異なることがひとつです。地域経済にそれなりの規模があり、そして観光産業が大きな武器となりえるところについては、IRに肯定的になりやすいでしょう。逆に、農林水産の一次産業が中心の地域などは、そもそもIRの選択肢は重要でないかもしれません。
もう一つは、IRのデメリットに対して、1年以内につくられる実施法でしっかりと抑えていこうという立場と、今回の基本法でしっかりと示されないと賛成できないという立場の違いもあるでしょう。
衆議院においては、わずか6時間しか議論がされなかったことは、私も残念だと思っています。法案自体は3年間かけて議論を重ねてきたものですが、だからといって国会での審議を短くすることは、批判を免れ得ないでしょう。しかしそのうえで、各議員が、自分の責任の下で、地元の声も聞きながら総合的に判断をしたのが、今回の結果だと思っております。
では、なぜ私が賛成したかです。
IR法案のことを「カジノ法案」とするメディアが多いですが、これは誤解を招きます。反対する方々に聞いてみると、アメリカのギャング映画に出てくるような「カジノ」ができると思っておられる方もいらっしゃいました。「アル・カポネ」がカジノを仕切り、負けると別の部屋で身ぐるみはがされる。退廃した街にはマフィアが暗躍し、すべてを失った人たちがさまよう。世界のIRは、こういうものではありません。
今回の法案でいうIRとは、ホテルや劇場、レストラン、ショッピング、国際会議場や展示場、遊園地に水族館、そしてカジノが複合する「複合型観光施設(IR: Integrated Resort)」の意味です。カジノ単体を認めるものではなく、様々な施設と一緒になったリゾート施設であり、カジノが占めるのは全体の5%程度。ちなみに最近成功したシンガポールでは、カジノ施設は全体の3%以下です。
つまり、IRとは、家族みんなでリゾートホテルに泊まって、お母さんはお買い物をして、子どもたちのためには遊園地や娯楽施設があって、みなでショーを楽しみ、ゲーミングを楽しみたいお父さんには、カジノもある。こういう施設がIRです。カジノのメッカであるラスベガスが、単にカジノだけではなく、スポーツ観戦やサーカスなど、様々な娯楽と融合しているのを思えば、IRをイメージして頂けると思います。
全体の5%程度しかカジノはありませんが、そこからの収益は大きなものがあります。富裕層をターゲットにするカジノは、IRを引っ張るエンジンとなることは間違いありません。シンガポールの例をあげれば、カジノは施設全体の3%ですが、利益でいえば全体の75~80%を占めています。そしてこのカジノが、IR内のホテルだけでなく、周りの競合するホテルの価格をあげ、国際会議場の収益をあげ、ショッピングモールの売り上げをあげるなど、カジノ以外の商業施設の利益を底上げにつながっていきます。これは、シンガポールの例からもデータが示されています。
つまりIRが成功すれば、IR全体の中でカジノの収益が占める割合は、どんどん減っていくこともあるでしょう。実際、ラスベガスでは、1979年ではカジノの収益が全体の60%近くありました。それが現在では、37%にまで減ってきました。
ちなみに、こうしたカジノの大きな売り上げから、政府は一定の納付金を徴収できます。得られる納付金を活用して政府は、観光振興や文化振興、あるいは最も重要な施策の一つである「ギャンブル依存症対策」に取り組んでいくことができます。
では、本当にそんなに利益が見込めるのか。経済効果を含め、雇用や税収を増やす見込みがあるのかという点です。
日本は、観光立国を目指して、日本を訪れる観光客を増やそうとしています。とくに、大阪をはじめ地方都市にとっては、観光は地域経済活性化の重要な柱の一つです。
オックスフォード大学のベンチャー企業の調査によると、たとえば大阪でIRを開発した場合、押し上げられるGDPは9500億円、IR運用で生み出される雇用者数は7万7500人と推計されています。また、大阪での税収は3400億円アップするとの結果でした。
「いやいや、世界ではもう思ったほど需要がないのでは」、との指摘もあります。そこはもちろん、参入する企業の戦略が大事でしょうが、私自身は、ラスベガスやシンガポールには無い日本のハイテクや伝統文化、ポップカルチャーと融合させれば、十分世界に勝てるIRが作れると思っています。たとえば、歌舞伎の市川團十郎さんは、「IRをつくるなら、その中に歌舞伎場をつくってほしい」とおっしゃっています。「気軽にパッと入って、1時間で堪能できる歌舞伎をつくってみせます。」とのこと。
IRがビジネスになるかどうかは、こうした斬新なアイディアと戦略次第といえるのではないでしょうか。
日本の場合は、競馬や競艇、競輪などの施設がすでに247か所あります。あるいは「遊技」とされるパチンコなどは1万2000店、宝くじ売り場は1万5000か所存在しています。あえて「ギャンブル」と言いますが、これだけ「ギャンブル」があっても、日本政府は「ギャンブル依存症対策」を真剣に取り組んできませんでした。現状においても、依存症への政府の対応は、不十分だと思います。
一方で、IRができると、「ギャンブル依存症」が増えるのではないか、との指摘があります。しかし、「カジノ」が認められている国は世界140か国ありますが、各国の例をみても「カジノ」ができたことによって「ギャンブル依存症」が増えたという例は見当たりません。
米国がギャンブル見直しを任務として連邦政府設置委員会を立ち上げた際、全国調査を行いました。結果、ギャンブル依存症は国民の2%でしたが、カジノ施設が急激に増加した時期においても変化が見られず、一定の割合を維持していたことが強調されています。
つまり、日本にこれだけ「ギャンブル」がある以上、「カジノ」ができることがきっかけで依存症が増えることにつながりません。むしろ、現在においても依存症で苦しんでいらっしゃる方々、あるいはご家族の方々のために、どういった対策ができるかというところが重要なんです。
ギャンブル依存症への対策を、今回の法案を通じて政府にしっかりと対応させることが重要だと考えます。これは非常に重要な点で、今回の法案の付帯決議にも、しっかりと書き込ませていただいております。
政府に「ギャンブル依存症対策として、現在、どれくらい予算措置しているか?」と聞くと、ほとんど無いとの答えが返ってきます。かろうじて、「アルコール依存症対策」の一環として行っている施策があるくらいです。
そして、このように対策が不十分なのは、「財源」がないことも一つの理由でしょう。今回の法案では、IRの事業者から地方自治体や政府に一定の納付金を収めることになっています。これを財源として、「ギャンブル依存症対策」をしっかりと進めるよう、政府に義務付けることができるんです。
いままで全く不十分であった依存症対策を、IR法案を通じて、財源も含めて政府に実行を課すことができる。こうした点で、IR法案は意味が大きいと思っています。
家族が反対するのに、お父さんがお給料を毎月、そのまま競馬につぎ込んでしまう。あるいはお母さんが、自分ではだめだと思っていても、ついつい生活費をパチンコに突っ込んでしまう。こういう事態を防ぐことができれば、どれほど依存症に苦しむ人々を救えるかしれません。こうした事態を生み出さないために、実施法で具体的にどういった制度を作るか、ここが重要です。
シンガポールでは、家族が連絡すればカジノに入れません。あるいは本人の自己申告によって、入場できなくなります。そのほか、入場を規制するいろんな仕組みを入れています。こういう例を参考にして、日本でも厳格なルールを作っていこうと思います。
IRのカジノは、だれでも気軽に入れるようなものではありません。カジノに入るためには、決して安くない入場料を払う必要があります。これは、だれでも入れる「パチンコ」や、だれでも参加できる競馬などとは異なります。対象を富裕層にしぼるため、入場の時点で、一定のハードルを設けるよう、議論が進められています。
そもそも、本法案によって、新たにたくさんの「カジノ」が設置されるわけではありません。駅前に「カジノ」ができるようなイメージがあるとすれば、それは間違いです。今回の法律では、「カジノ」を含んだIR施設は、全国でわずか2,3か所に限定する予定です。しかも、国の指定のためには、各自治体が自ら手を挙げる必要があります。それも、首長が勝手に手を挙げることができず、市町村の議会で、きちんと同意を得る必要があります。つまり、設置自体が相当程度、制限がされることを、付け加えておきたいと思います。
時代はさかのぼりますが、1920年代のアメリカでは、「禁酒法」によってアルコールが禁止されていました。その時代、反社会勢力が「闇バーボン」をつくって荒稼ぎをし、それを資金源として裏社会が広がりました。ところが禁酒法が廃止され、政府の規制の下でお酒造りが認められると、闇バーボンは激減していきます。つまり、禁止すると闇に潜り、規制の下で認めると、闇が縮小していく。こういった歴史でした。
IR前のシンガポールも同じような状況でした。IR前のシンガポールでは、闇カジノが存在し、闇であるために実態が把握できず、カジノが裏社会の資金源になっていました。IR導入後、国が正式にカジノを認めたので、監視監督が厳格に行われ、ギャンブル依存症対策が行われ、様相が一変しました。我が国においてすら、現在でも反社会勢力と結びついた「闇カジノ」が、しばしば摘発されています。
つまり、IR法案によって、ギャンブルに対する監視や監督を強化し、あわせて依存症対策に力を入れる体制をつくることで、闇を小さくしていけると思っています。具体的なデータとして示されているのは、IR中心都市であるラスベガスの犯罪発生率は、実は他の都市と比べて極めて低いということです。また、IRを新たにオープンした後、治安当局などが厳しく監視することとなり、犯罪発生率が下がった例(デトロイト市など)もみられます。
こうした観点から、IR法案をきっかけとして、政府が参入規制や運営ルールを厳格にし、常にチェックをすることで、裏社会が関与できる部分が減っていくと思っています。あわせて、資金の流れも規制を加えることで、裏カジノで行われているような「マネーロンダリング」(資金洗浄)も、抑えていくことができると思います。大事なことは、こうした治安や管理監督、規制をどのように具体的につくっていくかであって、それが1年以内に作成する実施法案となります。
私がIR法案に賛成したのは、以上のような理由からです。
多くのメリットがあることはもちろんのこと、デメリットについても、今後、1年以内につくることになる実施法でその多くを乗り越えることができると思えたからです。今回の法案と実施法によって、現在すでに直面している依存症などの課題も乗り越えていく。これを責任をもってやり遂げていくことが、我々立法府に課された仕事だと思っています。
その方向性を確かなものとするために、今回のIR法案可決にあたっては、15項目にもわたる付帯決議を付け加えました。これほどボリュームと中身のある付帯決議がつく法案は、多くはないと思います。それくらい、今回のIR法案では、次の実施法の中身をしっかりと縛ることができたということです。
今後、実施法作成の議論にしっかりと参画して、以上のようなメリット、あるいはデメリットにしっかりと向き合って参りたいと思います。