いさ走る(主張・メディア掲載)

2014.10.21 ノーベル賞の意味するものは?

奈良先端科学技術大学院大学の駒井章治先生を訪ねました。
ノーベル賞はその多くが、数十年前の過去の実績への評価です。研究の成果が、30年、40年経って、世に広く知れ渡り、社会を変えるに至ったからこその、ノーベル賞です。つまり、現在の日本の若手研究者を見れば、未来のノーベル賞を知ることができるのです。果たして、若手研究者のおかれた境遇は、いかがなものか。ご意見を伺いに、私と同じ団塊ジュニア世代の若手研究者、駒井先生を訪れました。

ノーベル賞受賞者の山中伸弥先生が、iPS細胞の研究を始めたのは奈良先端科技大時代、まさしく駒井先生が現在、いらっしゃるポジションです。駒井先生は、「細胞認知神経科学」といって、脳がどのように物事を認知し、記憶するのかを研究しています。脳の働きの、もっとも根源的な部分の研究といっても、良いと思います。

駒井先生いわく、現在の日本の科学技術制度は、「しばり」がきつすぎると言います。研究資金を得るためには、5年後の目標を定め、計画をたてて、ほぼ毎年のように評価を受けて、書類を書かされる。その事務手続きも膨大で、研究する時間が細切れになってしまう、と。
そもそも、「イノベーション」とは、これまで考えもしなかったものが出てくることです。今までの考え方の、延長線上にあるものではありません。それなのに、5年後の目標があって、毎年、計画通り進んでいるかチェックする。そこには、何の「イノベーション」もありません。山中先生の場合だって、計画通りに研究が思うように進まず、ひょんなことから出来てしまったのが、iPS細胞でした。
ノーベル賞までにつながるほどの偉大な発明の裏には、ある程度の自由さを若手研究者に認める「寛容さ」がありました。今、「科学技術立国」を標榜する日本には、それが失われつつあります。「計画」はどうか、「論文」はいくつかけたか、「資金」はきちっと使えているか、毎年厳しくチェックされています。しかし、「計画」通り運ばない予測を超えたところにイノベーションはあります。単なる「論文」数を増やしても、インパクトが無ければ意味がないはずです。「資金」は、研究が進まず余るようであれば、進んだ時に無駄なく使わせてあげれば良いのです。

過去の実績評価のノーベル賞に、過度に浮かれていては、大変なことになります。「科学技術」とすぐれた「人材」は、国土も狭く、資源に乏しい日本の、唯一の武器でした。未来を見据えて、政治の立場からも、全力で取り組んでいきたいと思います。