いさ走る(主張・メディア掲載)

2013.09.09 改革に必要なもの~「イノベーション」と「行政改革」~

大阪市政100周年記念事業として、1987年に設立された「大阪バイオサイエンス研究所」を訪れました。現在の市政改革の中、予算が毎年25%削られており、あと1年半で閉鎖を余儀なくされるであろうとのこと。確かに、基礎研究を基礎自治体の仕事として力を入れるべきなのか、という議論はあるでしょう。しかし、それにしてもこの研究所の蓄積してきた科学力、技術力はすごいものがあります。

1991年から2001年の10年間の調査では、研究所の論文あたりの引用数が「世界一位」となりました。つまり、限られた予算の中で、いかに研究成果を出しているかという指標で、並み居る海外の有名な研究所を押しのけて、「世界一」となったということです。また直近10年間(2003年~2013年)ではどうかというと、世界トップクラスの研究成果の指標となる、「ネイチャー」や「セル」、「サイエンス」という学術雑誌に掲載された論文の数は、45。小さい規模の研究所なので、わずか5つの部門数で10年間164の論文数しか出していないにもかかわらず、そのうち世界トップ論文が45もあるんです。これは、大阪の国立「O大学」が100以上の講座を持ち、7000本以上の論文を世に出しながら、トップクラス論文が50であったり、あるいは大阪の市立の「○市立大学」が70近くの講座を抱えながらトップクラスは2つだけという状況と比較すると、どれだけすごい知見の蓄積がなされてきたかがよく分かります。

しかし、そうした実情をどれだけ把握しているのか。市政改革の中で、コスト的な観点があまりに優先されて、議論されるべきではありません。「それだけ優秀なら、民間を含め外部から、資金を集めればいいではないか。」との声もあります。この研究所は、実は外部からの期待も高く、たくさんの資金を集めているんです。しかし、こうした外部資金は、あくまで「研究プロジェクト」のための予算であって、研究者のお給料や、日用品には使えないんです。まさしく、高額の「研究機器」は買えるが、「エンピツ」が買えない、という状況なんです。

「イノベーション」は、規制緩和、産学連携といった制度や体制をいくら整えても、イノベーションの種になる「シーズ」が無いと、どうしようもありません。「シーズ」を守り作っていくことも、視野に入れていかなければいけません。行政改革とは、新しい時代を創っていく作業であると同時に、ち密な議論がなければ、これまでの先人の蓄積を崩し去ってしまいます。「ち密な計画」と「大胆な決断」、これは何にでも言えることかもしれません。