いさ走る(主張・メディア掲載)

2019.12.31 中東への自衛隊派遣について ~公明党は、本当に歯止めになっているのか~

本年の仕事納めの12月27日、政府は中東地域に海上自衛隊を派遣することを閣議決定いたしました。

報道やネット上の反応を見ると、「そんなに危ないところに、日本の自衛隊を出して大丈夫なのか」、「自身を守れるような装備をしっかりさせるべきじゃないか」、あるいは逆に「安倍政権は、自衛隊を世界のどこにでも好き勝手に出せるようにしてしまったのではないか」「憲法の歯止めない拡大解釈じゃないか」、というようなお声もありました。こうしたご批判への回答も含めて、自衛隊の中東派遣について、ここにまとめておこうと思います。

 

1.なぜ自衛隊を派遣するのか

政府側と徹底的に議論をした一つは、派遣の理由、必要性です。なぜ、自衛隊をはるか中東まで派遣する必要があるのか。

今回派遣することになった中東は、日本にとって非常に重要な地域です。日本が輸入する原油の9割近くが、この地域からやってきます。ホルムズ海峡を通ってくる日本関係船舶は年間3,900隻、バブ・エル・マンデブ海峡を通ってくるのが1,800隻。もしこの海域で紛争が発生して船の往来が止まると、日本はエネルギーが断たれることになり、国民生活に大きな混乱を及ぼします。

この海域では、ここのところ緊張の高まりがみられます。

この5月には商船4隻が機雷で攻撃され、6月には日本の関係する船が攻撃、7月は英国のタンカーがイランに拿捕されました。立て続けに事件が起こることを受けて、日本政府は船舶の安全確保のために、自衛隊の派遣について検討を開始することとなりました。

この検討開始を受けて、船主や運行団体からなる「日本船主協会」や石油関係団体からなる「石油連盟」からは、「歓迎したい」「心強い」とのコメントが寄せられました。これは、中東の情勢がいかに不安定化してきているかを物語っています。

不安定な情勢とはなっていますが、かといって現段階ですぐに、日本の船舶を自衛隊が守らなければならないという、差し迫った状況でもありません。でも情勢は今後、どう動くかはわかりません。事態が悪化して、いざ日本の船舶を守る必要が出てきたとき、日本から1万2000㎞の彼方、行くだけで20日間もかかっていては、迅速な対応ができません。そこで、いざというときには日本の船を迅速に守ることができるよう、その情報収集の目的で自衛艦を派遣する、これが閣議決定の内容です。

 

2.何をするのか

いざというときに、すぐに日本の船舶をまもれるよう、現場の状況を把握しておく必要があります。もちろん、いざという事態が起こらないに越したことはありません。でも、世界中がいざというときのために軍隊を派遣し、航行の自由と安全確保を掲げて取り組んでいる時に、日本にこそ極めて重要なこの地域で、何の手も打たないということはあり得ません。

自衛隊は派遣されて何をするのか。今回のミッションは何かというと、「調査・研究」です。法律用語(防衛省設置法第4条第1項第18号)では「調査・研究」ですが、要するに情報収集です。「なぜ、情報収集をするのに、自衛隊でないといけないか。外交官じゃだめなのか」、とのご指摘もありますが、やはり外交官「だけ」じゃ不十分です。

大使館や領事館といった在外公館では、中東各国の内政事情含めて全力で情報収集にあたってくれています。でも、各国が軍を派遣している中では、軍同士でないと情報共有できない、入ってきにくい情報があります。たとえば、現場の海域を実際に航行している各国の海軍艦艇であれば、どの航路が安全か危険かをより詳しく知っているはずです。

今回の派遣では、こうした軍同士のチャンネルも活かして、最大限の情報収集を行い、そしていざという時には日本の船を守れるように、自衛隊が派遣されるのです。

 

3.外交が最優先

じゃあ、なぜ我が国は独自に活動をするのか。

いまや各国がこの地域に艦艇を派遣し、安全確保のための取組を進めています。たとえば米国は「海洋安全保障イニシアティブ」のもと、英国やオーストラリアと一緒になって艦艇を展開しています。フランスは欧州イニシアティブに取り組んでおり、アラブ首長国連邦に司令部を置くとしています。インドも艦艇派遣で独自の活動を展開しています。

日本はこうした国際枠組みに入らずに、米国と行動を共にせずに、独自の活動を展開することとしました。実はそこにこそ、日本の外交努力があるのです。

最近の中東地域の不安定化の原因のひとつとして、イラン核問題があげられます。

イランは、米国や仏独英はじめ6か国との間で、原子力活動を制限するという合意を結んでいました。しかしトランプ大統領は、この合意が不十分だとして2018年に離脱。イランに対しての制裁措置を2019年5月から開始しました。これに反発したイランは、ウラン濃縮活動を再開してしまいました。

日本は、米国の同盟国であると同時に、これまでの歴史を通じて、イランとは長い友好関係にあります。イラン核問題がおこってからは、これ以上緊張が高まらないよう、日本の立場を活かして各国に働きかけを行ってきました。イランの最高指導者であるハメネイ氏とも直接、安倍総理は対話をしてきました。この12月にはロウハニ大統領が訪日して、事態打開に向けた意見交換を重ねてきています。日本は、中東地域の安定を取り戻すため、日本の立場を活かした調整役として、努力を続けてきました。

こうした立場の日本にとっては、いくら同盟国といっても、イランと敵対する米国のイニシアティブに参加するわけにはいきません。中立の立場を守るためには、各国の枠組みの一員となるのではなく、独自の活動を推し進める必要がありました。日本は、中東地域の安定を取り戻すために、引き続き外交努力を最優先させていくことは、公明党の主張で閣議決定に盛り込まれています。

 

4.自衛隊の安全

そんな不安定な地域に自衛隊が派遣されて、彼らの安全は大丈夫なのか。十分な装備と訓練がなされているのか、という指摘があります。

今回任務にあたることになるのは、新たに日本から派遣される護衛艦が一隻、そして「すでに」同海域で海賊対処を行っている固定翼哨戒機P-3Cです。そうです、「すでに」です。実は自衛隊はこの地域で、10年以上にわたる活動の実績があります。中東のアデン湾における海賊対処活動のために、2009年から常時、護衛艦2隻と固定翼哨戒機が任務にあたっていることは、あまり知られていません。半年交代で入れ替わるので、50隻近くある護衛艦のほぼほぼ全てに、中東での護衛任務の経験があります。乗組員も含めて、すでに多くは経験のある地域です。

装備についても、「調査・研究」だからといって、軽装備で行くわけではありません。いざ何者かに攻撃されても、自艦を守るための「武器等防護」(自衛隊法第95条)に必要な武器使用は可能です。また情勢の変化によって、日本の民間船舶を攻撃から守る「海上警備行動」(自衛隊法第82条)が必要となったとしても、使用する装備は同じです。つまり、日本船舶を守るのに必要な装備と訓練をあらかじめ備えて、中東に向かうことになります。また、派遣される海域も「オマーン湾、アラビア海北部及びバブ・エル・マンデブ海峡東側のアデン湾の三海域の公海」と限定しています。米国などが中心となって活動をしているペルシャ湾やホルムズ海峡は、自衛隊の活動領域に含まれていません。

でももちろん、100%安全というわけではありません。だからこそ自衛隊を派遣して、日本の船舶の安全を図るのであり、各国と連携して十分な情報収集を行う必要があるのです。

 

5.閣議決定へ

さて、今回の「調査・研究」のミッションは防衛省設置法第4条に規定されており、防衛大臣の命令で行うことが可能です。しかし、この「調査・研究」が発令されるのは、これまで日本周辺の活動しかありませんでした。最近では、北朝鮮が国連決議に違反して、沖合で荷物を積み渡す「瀬取り」を自衛艦が監視するために、「調査・研究」を発令しました。

この「調査・研究」という任務を自衛隊にさせるには、防衛大臣の決裁だけで済んでしまいます。もし今回、「調査・研究」という名目で、防衛大臣の判断だけで中東にまで自衛隊を派遣してしまえば、これからも世界中どこにでも、いつでも自衛隊を派遣できることになってしまいます。そこで、公明党は「待った」をかけました。今回は、たとえ「調査・研究」であったとしても、中東まで自衛隊を派遣するという事の重大さから、防衛大臣や総理の独断だけでは決められない、与党審査がないと成立できない閣議決定事項としました。

しかも、情勢が変化し、いざ日本の船舶を護衛する「海上警備行動」が必要となったときには、さらにそのための閣議決定も必要となります。また「調査・研究」任務を1年と区切ったことで、1年ごとに与党審査を行い、閣議決定する必要も出てきます。つまり、「調査・研究」といえども、その派遣の最初の段階から途中経過にいたるまで、常に定期的に公明党を含めた与党審査を経る必要があります。政府だけ、総理の一存だけで決められるものではないという前例を作ったことになります。

 

6.国会の関与

では、国会の関与はどうか。もちろん閣議決定事項としてので、与党としてはそこでしっかりと審査することができます。そのうえで、野党の皆さんも含めた国会承認事項とすべきかどうかという話です。

某紙の社説では、過去のアフガニスタンでのテロとの戦いへの支援、あるいはイラク戦争での復興支援活動を引き合いにだし、「あのときも特別措置法をつくって国会で審議したではないか!それをしないとは乱暴だ!」、との意見が述べられています。しかし、実際に国と国との戦争が行われている地域(当時のアフガニスタンやイラク)に自衛隊をだすのと、民間船舶も(警戒しつつも)常時行き交っている地域への自衛隊派遣とを同列に論じることは、全くおかしいと思います。

もし情勢が激化して、過去のアフガニスタンと同じような活動が必要となるのであれば、それは「重要影響事態」であって、国会の承認がなければ自衛隊は活動できません。またイラク戦争のような復興支援となれば、それは「国際平和共同対処事態」であって、これも自衛隊の活動に国会承認が必要となります。つまり某紙が引き合いに出すような事態とは、当然、国会での審議がなければ自衛隊が活動できないような事態ですが、今回の事案とは全く前提が異なります。それが4年前に議論した平和安全法制の結論であって、今回の自衛隊派遣は拡大解釈でも何でもありません。

ただ、公明党は、何らかの形で国会のチェック機能は働かせることが大事だろうと考えました。そこで与党審査の議論においては、国会の承認事項ではないものの、自衛隊の現地での活動の状況についてはきちんと国会に報告するよう、閣議決定に盛り込ませました。こうして、今回の中東派遣においても、与党の審査や国会報告といった、文民統制の仕組みをきちんとビルトインさせました。

 

7.最後に

1992年6月に成立したPKO法は、戦後、はじめて自衛隊を海外に派遣する内容の法律で、大きな議論となりました。当時は、湾岸戦争で日本はお金しか出さないと、世界各国から批判されていた時代でした。しかし野党や一部メディアは「日本が戦争できる国になる」、「青年に銃を持たせるな」など、法案に対するネガティブ・キャンペーンを展開していました。そんな中で、日本は一国平和主義を捨て、世界の平和のために貢献すべきだとの考えで、当時、野党であった公明党はPKO法案の「賛成」にまわりました。「賛成」どころか、自民と民社との仲立ちを行い、また武力行使につながりかねないPKF本体業務を凍結するなどの修正を行って、廃案が危ぶまれたPKO法案を成立に導きました。いまでは、国民の8割の方々が、自衛隊のPKO業務を評価しています。

4年前、平和安全法制の審議では、私も特別委員会の委員として参画しました。憲法解釈で認められる集団的自衛権はどこまでか。国会承認が必要な事態や、閣議決定が必要な事態とはどういうものか。その時に必要な装備や武器使用の権限をどうするのか。徹底的に審議を行いました。その際にも、安倍総理の諮問機関だった安保法制懇から出てきた「集団的自衛権の全面解禁」を押しとどめ、国会の関与を含めた様々な歯止めをつくりあげました。そして同時に、現実に直面する安全保障環境に必要な、自衛隊が動けるための制度設計も行ってまいりました。

公明党は、右にも左にもぶれず、憲法9条に規定する専守防衛を重視したうえで、現実に必要な制度設計を積み上げてきたと自負しています。今後もこの姿勢を変えることなく、地域の平和と安定を守る議論を重ねてまいりたいと思います。