いさ走る(主張・メディア掲載)

2019.12.18 なぜ公明党は「寡婦控除」にこだわったのか ~未婚のひとり親支援~

与党は国会が閉会した後、年末まで様々な仕事があります。ひとつは、来年度予算の最終的な詰めの作業。そしてもう一つが、税制の改正です。
今年の税制で、最後までもつれにもつれたのが、「寡婦(寡夫)控除」(以下、同じ)の取扱いでした。実は、昨年もそうでした。一昨年の税制改正から本格的な議論が始まり、価値観が全く異なる自民党議員が多数おられるなかで、公明党が粘りに粘ったのがこの「寡婦控除」です。3年間の税制の議論で何があったのか、文章で残しておこうと思います。

 

1.いびつな「寡婦控除」という税制

母の手一つで子供を育てる母子家庭(もちろん、父子家庭も。以下同じです。)の皆さんに対しては、利用できる様々な支援があります。児童扶養手当や職業訓練が受けられる自立支援給付金などがありますが、そのうちの一つが「寡婦控除」です。
「寡婦控除」は、税金が安くなるというだけではなく、「寡婦控除」を受けていることが条件となって、様々な支援が紐づいています。「寡婦控除」の対象となることでどういった支援が得られるのかは、後程、触れたいと思います。
この「寡婦控除」は、もともとは戦争未亡人のための制度でした。その後、接ぎ木をするように対象を拡大してきたため、少しいびつな制度となってしまいました。そのいびつな点のひとつが、同じ母子家庭であったとしても、結婚経験の有無で差ができてしまっていたことです。「離婚」や「死別」でシングルマザーとなった母子家庭には「寡婦控除」が適用されますが、さまざまな事情があって「未婚」で母子家庭となった場合は、「寡婦控除」が適用されませんでした。

 

2.「寡婦控除」による支援

「寡婦控除」は、国の「所得税」でも適用されるし、地方の「住民税」にも適用されます。つまり、所得税も住民税も安くなります。所得税では最大35万円の所得控除、住民税では最大30万円が控除されます。この控除が、「未婚」のひとり親は適用されません。
さらには、住民税が非課税となるハードルも、「離婚」の場合は特別に低く設定されているために、住民税非課税世帯になりやすかったのですが、「未婚」のひとり親にはこの設定もありませんでした。

この控除には、さまざまな支援が紐づいていると申し上げました。単なる税金の支払いが安くなるだけではありません。「寡婦控除」を受けているひとり親世帯は、公営住宅の家賃が安くなります。「住民税非課税」のハードルも「離婚」と「未婚」では違うので、非課税世帯となれないことで、国民健康保険の全額免除は無い、医療費の上限を設けている高額療養費制度も倍くらい高い、そして2019年10月からの0~2歳の幼稚園・保育園の無償化も受けられない。このように、税制上の差が、さまざまな支援の差にもつながっていました。

 

3.自民党の伝統的価値観との対立

いま、母子世帯の中で約1割は、「未婚」の母子世帯であり、しかも毎年増えています。しかも平均収入を比較すると、「離婚」の母子世帯が就労収入205万円に対して、「未婚」の母子世帯は177万円。30万円程、「未婚」の平均収入の方がすくない状況です。
こうした点から、本来ならより支援が必要な「未婚」の母子世帯ですが、逆に「未婚」だから支援が行き届きませんでした。この不公正な制度を何とかしようと最初に提起したのは、2013年。公明党山口代表の本会議での代表質問でした。その年の税制改正大綱では検討事項として盛り込まれたものの、本格的な議論は一昨年の与党税制調査会まで待つことになります。

当初、自民党議員の中でも、とりわけ保守の方々からの反発は相当のものでした。伝統的な家族観を重視するあまり、「こんな支援をしたら、未婚のひとり親を助長するではないか!」といった批判も聞かれました。
しかし、これは全く理不尽な批判だと思います。なぜなら、そもそも「未婚」の母子世帯は、何も好き好んで「未婚」でシングルマザーになったわけではないからです。お話を伺うと、突然の婚約破棄もあれば、婚約していた男性が亡くなったケースもあります。妊娠を知ったと同時に男性が去っていった場合、あるいはDVで、やむにやまれず飛び出したケース。こうした多種多様な事情があって、「未婚」のシングルマザーになっているんです。さらに、支援が受けられないことで、「未婚」で産んでしまって「子どもに申し訳ない」との思いを抱いてしまうと言うんです。
この問題は、「家族観」の違いという話ではありません。いまそこにある課題、こどもの貧困をどうするかという、切実なテーマだと思います。その思いで、公明党は平成29年度の税制改正から、「寡婦控除」適用を求め活発な議論を展開してきました。私自身も、ライフスタイルの違いがあっても公平な税制とすべきだという観点から、青年委員会の一議員として主張をさせて頂きました。

 

4.一歩ずつの前進

平成29年度の税制改正の議論はどうなったか。結論だけ申し上げれば、我々の意見は採用されませんでした。自民党の保守層の方々を説得するにいたらず、制度を変えることはできませんでした。でもそれでもあきらめず、戦いの舞台を翌年の平成30年度税制改正の議論の場に移し、ふたたび問題を提起しました。 そのころ、私自身は財務大臣政務官に就任し、税制も私の担当となっておりました。しかし「税こそ政治」といわれるように、税は財務省で決めるものではありません。与党が年末の税制調査会ですべてを決めることになります。私自身は、そこを支える裏方として、実務の部分でこの「未婚」のひとり親の寡婦控除に関わることになりました。
この年の税制調査会でも、やはり最後までもめたのが、この案件でした。公明党は与党税調で粘りに粘り、年の瀬も押し迫った師走、ついに結果が出ました。

とりまとまった税制改正大綱によって、たとえ「未婚」のシングルマザーだったとしても、「離婚」した母子家庭と同じ、低いハードルで、住民税非課税が適用されることになったのです。これは大きな一歩でした。これによって住民税非課税世帯になれば、国民健康保険の保険料は免除されます。高額療養費の上限も半分になり、そして0~2歳の幼児教育無償化も10月から受けられる。公明党が進めた幼児教育無償化だったので、なんとしても「未婚」のひとり親にまで適用されるよう努力した結果、ギリギリ間に合ったことになります。
しかし、本丸は「寡婦控除」です。「未婚」のひとり親への「寡婦控除」の適用は、結論が得られませんでした。しかし年末の最後の最後、もし「寡婦控除」があったら控除によって減税されていたであろう1万7,500円分は、予算措置として翌年、支給されることとなりました。そのうえで税制改正大綱には、「さらなる税制上の対応について、20年度税制改正で検討し、結論を得る」と書き込むことで、来年度の宣戦布告まで行うこととなりました。

 

5.決着に向けての議論

令和2年度税制改正の議論が始まりました。議論が始まる前、正直、自民党保守層には「昨年でもう決着ついたやん!」という空気感があったように思います。しかし、こうした空気を読まないのが公明党のいいところ(?)で、前年に宣戦布告した通り、懲りずにふたたび「寡婦控除」を持ち出します。すると、これに呼応するかのように、自民党の女性議員の皆さんからも、力強い応援の議論が展開されたと聞いています。こうしたこともあって、新しく自民党の税調会長になられた甘利先生も、当初から「税制で対応する」との方針を示してくださっていました。

しかし、「寡婦控除」適用の実現に向けては、乗り越えなければいけない課題がいくつかありました。これらについて、関係者がみな納得する形で乗り越えないと、制度を実現することはできません。具体論になればなるほど、議論は難しくなってきました。
一つの課題は、所得制限をどうするかです。「離婚」した「女性」の場合、「寡婦控除」の適用には所得制限がありませんでした。しかし「男性」(父子家庭の父親)の場合には、所得500万円までと、制限があります。また児童扶養手当では、230万円という低い所得制限が設定されています。所得制限を設けるのか設けないのか、設けるならどの数字にあわせるのか。これが一つ課題でした。
そして二つ目、これも男女で不公平となっている点でした。控除される金額が、女性の場合は35万円でしたが、男性の場合は27万円となっていました。ここをどうするか。
三つ目、「離婚」したシングルマザーは、その後、良い男性とめぐり合って「事実婚」状態となった場合でも、「寡婦控除」が適用されていました。こうした「事実婚」世帯にまで控除の対象となっている現行制度をどう考えるのか。もし「事実婚」を支援の対象から除くのであれば、ではどうやって「事実婚」と判断するのか。これらについて、公明党内でもさまざまな意見が交わされました。

 

6.明るみになった新事実

議論の後半に、私たちがなんとしても「寡婦控除」適用を勝ち取らなければならないと、再び思いを強く固めたのは、高等教育無償化に潜む一つの事実でした。公明党の強い主張で実現した、日本で初めての返済の必要ない給付型奨学金、そして授業料や入学金が減免される制度は、みなさんから頂く消費税を財源として、この10月から大幅に対象が拡充されています。まさしく、家計でお困りのひとり親家庭にとっては、大きな助けとなるものでした。
ところがこの制度の適用においては、「寡婦控除」のあるなしで、もらえる金額に大きな差があることがわかったのです。たとえば年収200万円でみたときに、「寡婦控除」が適用されていれば、奨学金や授業料減免で160万円の支援が受けられます。「寡婦控除」がなければ、107万円の支援となります。実に、「寡婦控除」のあるなしで、54万円の差がついてしまうのです。
こうした不公平を無くすためにも、具体的な課題を乗り越えるため、みなで知恵を絞っての議論が続きました。

 

7.いよいよ決着

本年の税制改正も、結局、最後の最後まで、この「寡婦控除」で調整がつづきました。
そして、ついにその瞬間がおとずれました。党内全議員が参加する税調全体会議において、自民党との調整の結果が発表されました。その内容は、「未婚」の女性も「離婚」の女性も、そして「男性」も、すべての差を無くし、同じ「寡婦控除」が受けられる、という我々が目指していたものでした。
資料にこう書かれていました。「未婚のひとり親に寡婦(夫)控除を適用する。この際、適用する条件は離婚、死別の場合とすべて同様とする。」
そしてその条件として、所得制限が設けられました。230万円という児童扶養手当の低い所得制限ではなく、現在、男性の寡夫の所得制限となっている500万円まで、控除が認められることとなり、また男性も女性も同様となりました。また事実婚かどうかについては、「扶養控除」を受けている関係かどうかで決めることにしました。さらに、男性の所得が控除される控除額27万円は、女性の高い控除額35万円に合わせることになりました。

これによって、最初の問題提起から数えれば6年間におよぶ、長い長い議論が決着しました。結婚経験や性別による扱いの違いはすべてなくなり、公平な税制を実現するという抜本改革を実現することができました。
ただでさえ生活が大変な母子世帯の皆さん、その中でも「未婚」のシングルマザーは、より平均年収も低いのが現状です。「未婚」のシングルマザーは、母子世帯の1割という少数派ではありましたが、公明党はこうした方々の小さな声を受け止め、粘り強く訴え続けてきました。そして、大きな抜本改革を勝ち取ることができました。これからも、「小さな声を聴く力」を発揮し、頑張っていきたいと思います。