いさ走る(主張・メディア掲載)

2015.09.06 ロボット革命が開く未来

「ロボット革命元年」の今年、一般向けのパーソナル・ロボットの発売や、ロボットホテルの開業など、日常生活の中でロボットを目にする機会が増えてきた。政府はロボット新戦略を策定し、ロボット活用社会の推進をめざしている。そこで、テレビ番組で人気の「マツコロイド」の監修者で、ジェミノイド(人間酷似型ロボット)を開発し、最先端のロボット研究者として注目を集める大阪大学の石黒浩特別教授と公明党科学技術委員会事務局次長の伊佐進一衆院議員に、ロボット社会と人間のあり方、ロボット研究の最前線について語り合ってもらった。

 

“人間らしさ”問われる時代に

伊佐進一衆院議員 石黒先生は先日、新しいロボット事業を発表され、話題になっていました。

石黒浩大阪大学特別教授 テレノイド※とERICA(エリカ)※ですね。テレノイドは外見から個性をそぎ落とし声だけが人間らしいロボットです。人は足りない情報をポジティブなイメージで補完するので、テレノイドと対話すると、自分の子どもや可愛い人をイメージして対話ができます。 認知症高齢者は、遠慮したり、対人圧力を感じ話さなくなってしまいがちで、そのような人たちでもテレノイドには話し掛けやすい。既に、日本やデンマークの介護施設で実証実験し、介護状態の改善などに効果がありました。 それをサービスとして提供するために先日、「テレノイド計画」というベンチャーを設立し、実現に取り組んでいるところです。 一方、エリカは自律対話ができるロボットです。相手の位置や言葉を認識して自然な対話をします。

伊佐 エリカは見た目にもこだわったと聞きました。美人ですね。

石黒 いわゆる美人に見える“平均顔”に、美容整形のルールを重ね、合成したものです。美人顔の場合、少し表情が動くだけで、受け手は大きな表情に感じます。想像力を引き出す顔なのです。

伊佐 エリカは、話し掛けられた言葉が分からない時に、うまく相づちをしたり、視線でやり過ごしたりなどの動作で対話を継続するのがすごいですね。

石黒 私たちが一番研究しているところです。実は、人は相手の言葉が分からなくてもコミュニケーションができるのです。表情や身振り手振り、視線などを踏まえ、対話を継続させています。そのことをCommU(コミュー)※というロボットがよく示してくれています。

伊佐 ロボット開発が人間のコミュニケーションの成り立ちを解明することにもつながるのですね。

石黒 ロボット研究はもはや単なる工学的な研究ではありません。人間の能力を技術で置き換えることで、人間を理解できるようになります。そして、最終的に技術に置き換えられない能力こそ、真に人間を人間らしくしていると考えています。

伊佐 “真の人間らしさ”が見えてくると。ロボットの研究開発や普及が進むほど、人間とロボットの違いである“人間らしさ”が問われる時代になりそうです。

石黒 そうだと思います。「人間とは何か」を調べるのが私の研究です。

 

世界先導する環境つくる

伊佐 私たちの日常生活の中に続々とロボットが進出しています。

石黒 その通りです。技術開発は絶対に止まりません。なぜなら、技術による進化ができるのが人間で、他の動物にない特徴だからです。その最先端がロボットです。ロボットの開発は、人間の可能性をどんどん広げ、便利に豊かにするものです。

伊佐 日本は、産業用のロボットの年間出荷額、国内稼働台数ともに世界一です。「ものづくり」だけでなく、ロボットがおもてなしをするホテルといった「サービス産業」や、「先進医療」「介護」「農林水産業」「災害対策」など、さまざまな分野で、私たちの生活を変えていく可能性があります。公明党が科学技術政策に力を入れる理由もここにあります。

石黒 人間は時代の流れに沿って、絶えず新しい技術を生活に取り入れてきました。それによって、今までの生活が変わるわけで不安に思うのは当然です。一方で、すぐに慣れてしまうのも事実です。クレジットカードも当初は、「サインだけでお金をやりとりするなんて」という拒絶感がありました。でも、今では当たり前の技術になっています。

 

芸術と融合した製品開発へ

伊佐 公明党は、政府が今年1月に策定したロボット新戦略をリードするなど、未来志向のロボットの活用・普及に力を入れています。

石黒 日本のロボット開発は圧倒的なんです。家電もそうです。特に複雑なものを少量で作らせたら日本にかなう国はないと思います。

伊佐 その通りです。その上で石黒先生は、今後の日本に必要なものは何だと思いますか。

石黒 そうですね。技術と芸術が重なった領域での製品開発でしょうか。昨今は、新しいコンセプトや思想と結び付いた製品が売れています。新しいコンセプトを生み出すのは芸術です。また、技術や発明も、最終的に直感や芸術的センスによって実現されています。技術と芸術は深く融合しているのです。

伊佐 科学技術の発展にも、直感や芸術的センスなど人間性の土壌整備が重要で、それが世界をリードする「ものづくり」につながるのですね。大事なご指摘です。加えて言えば、科学技術の発展は私たちの生活に大きな影響を与えます。科学技術をどう使うかについても、人間性がカギになります。そうした視点を大事にしながら、政治の立場で科学技術の発展に力を尽くしてまいります。

 

語句解説

テレノイド
必要最小限の外見と動きのみを備えた遠隔操作型ロボット。抱きかかえて使用することで、遠隔操作する相手と話しているような感覚を持つ。今年7月にサービス事業化を発表。

ERICA(エリカ)
自然対話が可能な自律対話型アンドロイド。自然な振る舞いを実現するため、音声認識、音声からの動作生成、ロボット制御などの技術を統合し搭載。科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)で、今後5年をめどに実用化をめざす。

CommU(コミュー)
複数台で動く卓上サイズの会話ロボット。音声認識をしなくても、ロボット同士で掛け合いをすることで、より自然な対話を成り立たせる。