いさ走る(主張・メディア掲載)

2015.09.11 「みんな違ってみんな良い」 発達障害研究の現場から

発達障害を、科学的にとらえる研究をされている、大阪大学大学院の片山泰一教授から、お話を伺いました。

「発達障害」とは、自閉症、多動、学習障害など、さまざまな母集団の総称ですが、足が悪いとか、目が見えないとかといった、「機能障害」とは大きく異なります。つまり、体や心の機能に、はっきりとした問題があるわけではなく、多くの場合、「一般的」な感じ方とは「違う感じ方」、「違う見方」をするということです。「一般的」な感じ方と、「違う」感じ方のどちらが正しいということは、全くありません。誰だって、同じものに接したとしても、程度の差こそあれ見方も感じ方も違うわけであって、どれだけ違えば「発達障害」だという線引きは、本来、存在しません。しかし、感じ方が違えば違うほど、社会で生活しにくい「障害」が立ちはだかっているのは事実です。

とりわけ日本は、人と同じでなくてはいけないという価値観が強いため、社会生活での「障害」がより高いといえるかもしれません。そのため、母親、父親がわが子の「違い」を認めることに対してもハードルが高く、早期からの適切な「療育」が遅れる原因になっています。発達障害は、早期に発見し、早期に療育を行えば、予後がよくなると言われています。

そもそも「障害」ってなんでしょうか。今までは、「不利の原因をその人の持つ機能障害のせい」と考えてきました。つまり、その人の機能が「障害」と見られてきました。しかし、昨年1月に日本もやっと批准した「障害者権利条約」では、機能障害の事を考えないで作られた「社会の仕組み」に原因がある、としています。つまり、人間はいろんな違いがあって良く、その違い、多様性が、生活をする上で障害となるようであれば、そういった「社会の仕組み」こそが「障害」なんです。社会の仕組みを変えることで、「障害」と見えていたものは、「障害」ではなくなります。車いすで自由に行き来できるバリアフリーの街では、歩行困難者にとってはもはや「障害」は大きくありません。

じゃあ、「発達障害」における「療育」ってなんでしょうか。「社会の仕組み」こそが障害であるなら、感じ方の違いである「発達障害」そのものに原因を求めてはいけないはずです。そこを「療育」するという考え方はどういうことか、片山先生に伺いました。
片山先生いわく、「療育」とは、病気やけがを治そうとする「治療」という概念とは異なります。異なる考え方、感じ方を持つという「個性」ともいえるところを無理やり強制して、「一般的な」考え方に変えていくことではありません。片山先生がおっしゃっていたのは、「療育」とは、あくまで「こう動いた方が、社会に受け入れられやすく、得だよ!」ということを、後付けで教えるに過ぎないとのことです。感じ方の違いは違いとして、それがあっても生きやすい社会をつくることが、障害者権利条約の意味なのです、それであれば、感じ方を強制することは、必ずしも正しいとは言えません。その感じ方はそのままに、社会で生きるすべを教えるということだと、私は理解しました。

発達障害は、あくまで感じ方の「違い」なんだと実感できれば、「社会」によってつくられる障害も、少なくなるのではないか。客観的、科学的に違いを感じることができれば、両親もその事実も受け入れやすくなるのではないか。こうした思いで、片山先生が民間企業と協力して開発を進めてきたのが、「Kao TV」と言われる評価装置です。テレビ画面上の赤ちゃんの視点を追うことによって、その子がどういったものに興味を示し、何を見ているのかがわかります。これによって、「一般的」な1歳6か月の赤ちゃんとの感じ方の違いを知ることができます。

当初、導入時には自治体からの大きな懸念が示されました。それは、赤ちゃんの両親にとってみれば、受け入れたくない現実を突きつける、「最後通告」となる可能性があったからです。しかし、少しずつ自治体での導入も広がってきています。実際に導入した自治体では、当初心配した懸念は全くないそうです。逆に、「うちの子は、こういうところに興味があるのか。」「他の子と違って、こういうところを見ているのか」というところがわかって、その視点を活かしてあげようと思うようになるようです。あるいは、「うちの子は、他の子と違って、こういうものに興味がある。」と言えることで、周りの理解も進んでいくとおっしゃっておりました。

私の地元守口市は、この片山先生の「Kao TV」をいち早く取り入れた自治体の一つです。こうした取り組みを、私も拡げていきたいと思っています。国の障害施策、特別支援教育の在り方を再度、考えさせられる、素晴らしい議論が出来ました。

http://www.jvckenwood.com/corporate/csr/social/gazefinder.html