いさ走る(主張・メディア掲載)

2015.07.16 シリーズ 平和安全法制⑥「衆議院可決にあたって」

先ほどの衆議院本会議において、野党が退席する中、平和安全法制が可決されました。法案の衆院通過にあたり、感じていることを申し上げます。

今回、116時間を超える審議時間は、安保関連では日米安保条約に次ぐ長時間のものでした。しかも、できるだけ野党に質疑の時間を確保しようと、与野党の審議時間を1:9で割ったため、野党一人あたり7時間を超える質疑時間を割り振ることとなりました。私は幸い1時間程度の時間をもらえましたが、自民党はほとんどの委員がゼロです。法案の趣旨を説明する機会となる、与党の質疑が極端に少なくなったため、結果、野党側の論理が報道でも目立ってしまったのは、残念でなりません。
もちろん、大事なことは、議論が深まるかどうかであって、質疑時間じゃないというご意見も、その通りだと思います。しかし、ここのところ委員会の質疑も、既になされた同じような質疑が繰り返され、新たな論点が見られなくなってきたのも事実です。新たな論点どころか、安保法制についてですらなく、自民党若手勉強会での言論への圧力発言だとか、新国立競技場の2500億円の建設費の質疑だったり、さらには、安保法案と全く関係のない政治資金問題であったり。本来の委員会の趣旨から、かけはなれた質疑が目立ってきた感がありました。
そういった意味では、事ここに至っては、衆議院の質疑をこれ以上重ねていったとしても、なかなか理解が深まらないのではないか、というのが、116時間の委員会に参加し、目の前ですべての質疑を見てきた私の感想です。
しかし、では国民の理解が深まっているかといえば、わたしもそうは思いません。連日、たくさんの方々が、ご自身の仕事や生活もあるなかで、蒸し暑い国会前に集まり、必死の思いを訴えておられます。世論調査をみても、政府、与党の説明がまだまだ不十分だとのご指摘も最もだと思います。そんな中、われわれ与党議員は、本法案を作成し、衆議院を通過させた説明責任をしっかりと負っていく義務があります。法案審議でなかなか地元に帰れなかった分、これからは地元の皆さん、あるいはそれ以外の地域にも積極的に足を運んで、少しでもご理解をして頂けるように、努力をしていこうと思っております。  「国民の理解が進まない中で採決をするな!」というお声も頂いております。しかし、先ほど申し上げた通り、同じような質疑が繰り返されるような状況になった以上、国会審議をこのまま続けていったとしても、国民理解が深まるとは限らないと思っています。それよりも、参議院に送って、良識と学識の府において新たな角度から論点をあぶり出し、国民の皆様の理解が進むような議論を展開して頂くことを期待しています。

「強行採決」という報道が目立ちますが、そもそも「強行採決」とは何でしょうか。私が日頃から接している米国大使館、あるいはオーストラリア大使館、ドイツ大使館と意見交換をする際、困るのは「強行採決」を英語でどう説明するかです。そもそも、選挙で多数を占めた政権与党が、多数決で政策を決していくのが民主主義であって、「採決」が「強行」だという概念が、他国にはありません。「強行採決」という単語が無いんです。誤解を恐れずに言えば、民主主義とはいっても、できるだけ野党にも幅広くご理解を頂いたうえで採決をしようという、調和を大切にする日本の慣習を重視する中で、「強行採決」という言葉が出来たのではないかと思います。
では、今回の採決が、野党の理解を幅広く得ようとした努力が失われていたのかと言えば、申し上げた通り、与野党の質疑時間を1:9と割り振り、野党一人当たり7時間以上も質疑時間を提供し、議論終結間際に出てきた維新の党の独自案に対しても、委員会で取り上げて審議をして参りました。私は、誠意が欠けていたとは、全く思いません。むしろ、最大限の配慮の中で、審議を行ってきたと思っています。

もう一つ、今回の委員会質疑を通じて感じたことを申し上げれば、一部メディアが、連日のように偏った報道を繰り返しているのは、残念でなりません。第四の権力として、政府、国会、司法を厳しくチェックするのは、メディアの当然の使命です。しかし同時に、社会の公器として、できるだけ公正・中立に事実を国民に伝えていくという側面も、大事なことだと思っています。
こういうこともありました。朝日新聞で『安保法案「違憲」104人、「合憲」2人』という見出しに続いて、以下の記事が紹介されていました。  朝日新聞が、権威ある判例集「憲法判例百選」の執筆者209人の憲法学者にアンケートをとったそうです。その中、回答を得られたのは122人、そのうち「憲法違反」と答えた人は104人、「憲法違反の可能性がある」と答えた人が15人、「憲法違反にはあたらない」は、たった2人だった、と。
しかし、朝日新聞は同時に、こういう質問もしています。「自衛隊が憲法違反かどうか」。 そうすると、「憲法違反」と答えたのが50人、「憲法違反の可能性がある」と答えたのが27人。なんと、回答者の7割近くは、「自衛隊」の存在すら、憲法違反という意見をお持ちの方々です。いま、国民の皆様に聞いても、「自衛隊」が憲法違反だから解散すべきという方々が、7割もいるとは思いません。むしろ、そういう方々は少数だと思っています。自衛隊そのものが「違憲」だとする憲法学者の皆さんに、今回の安保法制の合憲性を聞けば、その結果は、推して知るべしです。
しかし、私が問題と思うのは、ここからです。朝日新聞では、アンケートに答えた憲法学者の7割もの方々が、「自衛隊」すら違憲と考えているという部分を、早版の紙面ではのせていましたが、まずいと思ったのか、遅版ではその部分だけを削除してしまっています。デジタル版では残っていますが、11日付朝日新聞1面では、その部分だけきれいに削除しています。  メディアのこうした情報操作は、安保法制、あるいは自公政権に対して偏ったイメージを植え付けようとするものです。言論の自由は何よりも大切ですし、そこを攻めるつもりもありませんが、国民、読者に対して、ただただ誠実でいてほしいと思います。

昨夜のテレビニュースでは、委員会のメンバーでもなんでもない民主党議員が、総出となって議場に乱入し、「アベ政治を許さない」といったプラカードを掲げ、議場を埋め尽くつくすシーンが、何度も報道されました。
議長を取り囲み、マイクを奪い、そして議長が読上げようとする原稿を何度も奪う。「反対!反対!」と大声を張りあげて、議長の声を聞こえなくさせて議事を妨害する。採決反対といったって、そのプラカードで議長に向けられたものなど、ありません。すべて、テレビカメラに向けて掲げられ、挙句の果てに、涙を流し、手を合わせて訴える。パフォーマンス以外の何物でもありません。そして採決の後は、それらのプラカードを持って帰ることもせず、議場に放ったらかし。議場がゴミの山になったのを片付けたのは、委員会の職員の皆さんでした。
本気で世論に訴えかけようとするなら、対案を示し、そして採決直前の討論で、自らの信念を鬼気迫る想いで、原稿なしででも滔々と訴えるべきです。与野党を超えて、心が揺り動かされる演説をすべきです。ところが、党内すら取りまとめられない民主党は、対案も出せず、そして討論すら行いませんでした。

私は、言論の府であるなら、言論で勝負すべきだと思います。言葉で勝負するのが、民主主義の、国会議員の仕事だと思います。衆議院の審議は終わりましたが、今後、私自身各地をまわって、言葉で、説明を続けたいと思います。罵声を浴びせられることもあるでしょうが、少しでも皆さんのご理解を頂けるよう、がんばって行く決意です。