いさ走る(主張・メディア掲載)

2017.05.15 米軍基地の「抑止力」と、沖縄の痛み

1.本土復帰45周年

本日で、沖縄が本土に復帰してから45年となりました。45年経った今でも沖縄は、安全保障の議論の焦点の一つとなっています。

私が事務局長をしている「在沖縄米軍基地調査ワーキングチーム」は、昨年より1年間にわたって検討を続け、先日、その提言を菅官房長官に申し入れました。普天間の辺野古移設はじめ、沖縄の米軍基地について、私の思いを申し述べたいと思います。

 

2.「抑止力」としての沖縄

北朝鮮の核実験・弾道ミサイル発射の増加など、我が国を取り巻く安全保障環境は、ますます厳しさを増しています。そんな中で、日米同盟を強化し、連携を深めていくことは重要です。これは、日本にとって重要というだけではありません。このアジア地域全体の平和と安定にとっても、日米同盟の強化は重要なことだと思っています。そしてその日米同盟において、「抑止力」という観点から、在沖縄米軍は重要な役割を果たしています。

 

ひとつには、その地理的位置にあります。アジアの各地域に近いと同時に、一定の距離にあること。そして北朝鮮や台湾海峡といった潜在的な紛争地域にも近く、戦略的要衝となっています。

もちろん、海兵隊がほんとうに沖縄に必要なのか、といった議論があるのは承知しています。たとえば「オスプレイはじめ、航続距離や速度が昔と比較して、飛躍的に向上している。海兵隊は沖縄にいなくても、すぐに駆け付けられるはず。」あるいは、「海兵隊を運ぶ強襲揚陸艦は、佐世保からくるので、九州にいればいいではないか。」さらには、「有事には何万人もの部隊が必要となるが、沖縄の海兵隊一個遠征隊くらいでは、何の役にも立たないではないか。」などなどです。

その一つ一つに対して、私なりの意見はあります。日常の訓練への支障をきたすこと、遠征軍規模(5万人)や揚陸艦が来る段階と、海兵隊による最初の槍の一突きが必要なタイミングは異なることなどがありますが、軍のオペレーションに関することなので、ここでは差し控えたいと思います。ただ一点だけ強調させて頂ければ、今ある海兵隊を移動させることが、周辺諸国に対してどのようなメッセージを与えるか、ということです。

「抑止力」というのは、こちらの考えで決まるものではありません。相手がどう受け止めているかが「抑止力」です。一方がいくら防衛力を誇示しても、相手方がそれを脅威に感じなければ、何の「抑止力」にもなりません。逆に、こちらは「抑止力」を落としたつもりはなくても、「弱まった」と相手が感じてしまえば、「抑止力」は弱まります。「抑止力」は、戦術的な合理性だけではないことは、常に胸に置いていかないといけないでしょう。

これらの観点から、少なくとも現状においては、私は在沖縄米軍の重要性について、私は否定できる材料は持ち合わせていません。

 

3.沖縄の痛み

そのうえで、「抑止力」の議論とは別に、沖縄の皆さんが経験してきた歴史を、我々は胸に刻んでおくべきです。私は大阪の人間ですが、「伊佐」という名前のルーツは沖縄にあります。幼いころ、沖縄のおじい、おばあから、悲惨な沖縄戦の話を聞いて育ちました。「鉄の暴風作戦」として、沖縄の人々の命を盾にするという大本営の戦略が、あの悲惨な沖縄戦につながりました。

また、歴史を勉強する中で、沖縄では同じ歴史が繰り返されていることを知りました。「鉄の暴風」の100年前、徳川斉昭は欧米列強の開国要求に対して、琉球でフランスと一大決戦を提案しています。双方に大量の血を流させて、「こんな小さな島であっても、日本を攻めるのはこれほど大変なんだ」と思わせるという、「琉球決戦論」でした。まさに、100年前にすでに、「鉄の暴風」の原型がありました。

その後も日本は、沖縄を切り売りするという提案を、中国にしています。欧米列強と同じ権利を清国に認めさせるために、琉球を分断して、宮古・八重山を割譲するという提案でした。当時、琉球は自主国家であったにもかかわらずです。清の李鴻章は、そうした琉球の思いを代弁し、割譲は見送られました。

 

近代の歴史の中で、沖縄は何度か「捨て石」にされてきたといっても過言ではありません。この歴史が、沖縄の人々の心の奥深くに、抜きがたいトゲとなって刺さっています。そして、基地問題を考える時には、このことを理解する必要があります。いまこの瞬間も、北朝鮮のミサイル攻撃が叫ばれる中、日本のどの地域よりも高いリスクにさらされている一つが、米軍専用施設の約70%が集中している沖縄県です。この感覚を、日本のどれくらいの人々が持っているでしょうか。

 

4.新たな提案

沖縄の負担軽減は、重要かつ喫緊の課題です。米軍基地の在り方は、あくまで日本の安全保障全体の問題であって、他人事ではありません。我々は「無関心」の壁を取りはらって、沖縄県の人々の心に寄り添いながら安全保障政策を進めていくべきです。「抑止力」の必要性だけを振り回すようであれば、沖縄の方々の理解は得られません。その結果、やるべきことが進まないのであれば、逆に「抑止力」が損なわれることになってしまいます。

こうした観点から、公明党の在沖縄米軍基地調査WTでは、東京で安全保障の専門家との意見交換を重ねるだけでなく、沖縄県内でも何度も会合を開いて沖縄の声を聞いてきました。そして、いま最も優先すべき課題として4項目を取りまとめ、菅官房長官に申し入れました。

 

その一つは、「普天間飛行場の2019年までの閉鎖」です。

普天間飛行場は、学校や民家が隣接しており、世界で最も危険だとも言われています。普天間の固定化を避け、できるだけ早期に返還する必要があることは、日米の共通認識だと思います。

2013年12月に、仲井眞前知事から安倍総理に対し、普天間を5年以内(2019年2月まで)の運用停止してほしいとの要請があり、安倍総理からも前向きな答えが返ってきていました。(沖縄側は「合意」と認識していますが、政府はあくまで「要請があった」としています。)

しかし知事も変わり、また政府と沖縄県との間で訴訟が起きるなど、状況が変わりました。政府は、「沖縄側の協力が得られない」ため、5年以内の閉鎖は「難しい」というトーンに変わっています。

これを今回の提言によって、再び普天間の運用停止は「2019年まで」というラインに戻そうというものです。この提案に対して菅官房長官からは、「きわめて重く受け止める。目に見える形で、政府の真剣度がわかる形で対応したい」と、一歩、踏み込んだ形で回答がありました。

提言では、普天間飛行場の返還以外にも、日米地位協定の課題や、返還されれば大きな経済効果が見込まれる那覇軍港や牧港の早期返還、軍民共同使用についても、申し入れをいたしました。

 

これらを含めて、沖縄の皆さんの負担軽減については、そしてそれが本当の意味での「抑止力」につながっていくんだとの思いのもと、一歩ずつでも前に進めてまいりたいと思っています。